結婚日和じゃないですか?
「………で、は結局何がしたいわけ?」 「もう! 鈍い、鈍すぎるわよサエ! なんでわかんないの!?」 「いや、普通わかんないよ」 「そんなんじゃあたしの彼氏失格ですよ、コジローくん」 目の前の愛しい彼氏(でも今のでちょっと好感度下がったわ!)に、人差し指突き刺してハッキリとそう言うと、サエはまるで奇妙なものを見るような目つきでまじまじとあたしの顔を見つめてきた。顔には誰が見てもわかるように、「何言ってんだコイツ…」と書いてある。なんてわかりやすいヤツだ。てゆっか、あたしがこんなにもサエのこと理解してるってのに、どうしてサエはあたしの意図を全く読んでくれないのかな…!?(やっぱり好感度ダウンです!)(こんなんじゃ真夏のナイスカップル☆になれないじゃない!)(ご立腹) 「ねえ、ホントに全然わかんないの? このシチュエーションで?」 「悪いけど、全然わかんない」 「……はぁ〜〜」 「ため息つかれてもなぁ…」 「じゃあ、しょうがない、ちょっとあれだけど教えてあげる!」 「うん。そうして」 「まず、ヒントね! アイウィルギブユーサムヒント!」 「(…何で英語?) ハイハイ、お願いします」 「感情がこもってない! プリーズギブミーヒントって言って!」 「(昨日コイツ英語の勉強したんだな…) プリーズギブミーヒント」 「うむ。よろしい!」 ホントはサエに自分で気づいて欲しかったんだけどね、こうなったら仕方ない。サエは気のつくようでいて実は全然鈍かったりするし。好きだからね、そうゆうとこがね! だから出来た彼女のちゃんは不本意だけど、許してあげましょう。(自画自賛!) 「まず、あなたの目の前にあるのはなんでしょう。佐伯くん」 「自転車?(がもってきた)」 「正解! あと、ここは何処ですか?」 「俺の家の前」 「ぶーはずれ! 道を見て道!」 「道? 道路? あ、坂道か」 「正解! そんで最後! あたしとサエの関係は?」 「………恋人同士だろ、普通に」 「( 恋 人 同 士 だって…!)」 うわ、あ、当たりだけど恥ずかしいこの人ちょっと! 恋人だって! カレカノとかでいいじゃん、って思うのってあたしだけ? わー純情だサエ! まさしく"彼"そのものだわね…!(好感度アップ!)(ご満悦) 「……なに、なんか文句あんの?」 「いやいや全くそんなことは!(拗ねてる、可愛い…!)」 「それならいいけど。んで、さ、」 「自転車と坂道と恋人っつったら、もう一つしか連想できないでしょ、サエくん!」 サエの言葉を横切ってあたしは言葉を続ける。 だってねえ、もうここまで来たらさすがのサエもわかると思うのよ! むしろ言いたくて言いたくてたまらなかったわけ、あたしは! 「耳をすませばごっこしよう!!」 必要な物は自転車と坂道と中学男女二人。 お手軽かつ完璧なシチュエーション。あのラストは感動モノだったから、是が非でもやりたいなあと思ったわけなんですよ。時間は朝じゃないけど。夕焼けでも素敵でしょ? 「…………」 「えへ?」 サエはやっぱり…って呟いたあとガクリと肩を落とす。 なんなんだその態度! 失礼だよ! (ご立腹) 「………ちなみに拒否権は?」 「あるわけないじゃない? 佐伯くん、そんなに人生甘くないのよ!」 「……やっぱり、か…。マジですんの? 今から?」 「もっちろーん。ほら、サエ早く乗って! 漕いで! そんでね、あたしが降りようか?って聞くから、したらサエはお前を乗せて坂道上るって決めたんだ!ってゆってね」 「……(絶句)」 「そんでね、あたしそんなのずるい!って言って、後ろから自転車押すから。そんで、あとちょっとってとこになったら、! 早く乗れ!っていうんだよ。雫って言っちゃだめだよ、オッケー? さあ一緒にあの坂の上を目指そう!」 「(…何でこいつこんなにセリフ覚えてんだよ…!)」 あたしがノンブレスでそう言うと、サエはその瞬間かなり脱力した顔になった。 ……うわ、あからさまに嫌そうな顔。ちょっとそれは彼女にする表情じゃないんじゃないかしら。(好感度ダウンです)(ご立腹です) 「………つーか、俺思うんだけど普通にここ人通るしかなり恥ずかしいと思うよ」 「そんなことないって!」 「そんで二人乗りはいいとしても、何でわざわざ耳をすませば通りのセリフ言わなきゃいけないんだよ。いつもの会話じゃいけないの?」 「……………」 「ほら、だからさ、自転車のって海でも見に行こ。それならいいだろ?」 「……………」 サエはよし、と何やら勝手に自己完結したらしく、あたしのおニューの自転車にまたいで、ほら、と後ろの荷台を指差した。……わかってない。全然わかってないんだこの男はっ! あたしはなんだか我慢できなくなって、ぷぅっと頬を膨らませた。前、サエにその顔可愛くないよとか言われたけどそんなこと気にしてられっかっ!(こっちのが重大だ!) 「サエのバカッ! 酷い!!」 「なんでだよ!」 「あたしはね、あたしはね…!!」 「ちゃんとのしたいように二人乗りするって言ってんじゃん、俺」 「ちがうもん!! 全然違うの!!」 「…どこが?」 「あたしは、雫ちゃんと聖司くんみたいに、若い青春を楽しみたいのよ!! 遠距離とかそうゆうの全部乗り越えて夢応援するよってゆう二人の美しい愛を実演したいの!! サエは全然わかってないんだからバカー!!」 「……はぁ?」 「だからあの通りにやらなきゃ意味ないんだもん…!」 (そしてあわよくば最後のあのセリフを言われたいなぁって!) 「―――あたしの、夢なのっ!!」 (初めてあの映画を見たときからずっと決めてたんだから!) 「―――あたしの、夢なのっ!!」(もう一度言いました) あたしは一歩も引かないぞ、という決意を全面に出してご近所迷惑も何も考えずにものすごく大きい声でそう言った。サエはあたしの気迫に驚いたらしく、目を点にしてジッとこちらを見つめる。………これでもまだダメとか言ったら、別れてやるんだから! 「……………そんなに、やりたいの?」 「もちろんです」 「……………はぁ」 「(ため息つくな!)」 「………でも、俺セリフ覚えてないよ」 「大丈夫あたしがフォローする!」 「……しょうがないな…」 「やった! サエ大好き!!」 「(調子いいやつ…)(つうか、マジかよ)(もう疲れた)」 サエはなんだかんだ言ってあたしに甘いのよね、と思うのはこうゆうとき。 うふふ。やっぱあたしかなりイイ男見つけたかもしれない!(好感度アップです)(ご満悦です) ってゆっか、あたしの彼氏なんから、サエも多分したかったと思うのよね。うんうん。それに、あたしとサエなら、雫ちゃんと聖司くんみたく絵になるしね…! ああビデオとか写真とか撮りたかったな…。勿体無い気がしてきたぞ。(だってこんなの人生に一度しかできない)(若いうちに、ね!)(中3の夏は1度しかないのよ!) 「……?(また一人で何か考え込んでるし)」 「え、あ、うん、何かしら?」 「……さっさと乗れよ、坂登るんだろ?」 「あ、はいはい!」 ついつい心の中でトリップしたらサエの声をかけられた。 なんだ、やっぱりもしかしなくてもサエもやりたかったんじゃない。(素直じゃないなあ) あたしは満面の笑みで荷台に飛び乗った。よし、今から耳をすませばごっこスタートだ! 「んじゃあ、始めるわよサエ!」 「ハイハイ。」 「せーのっ!」 ――――やった…!! これぞ念願、の……!! ………………………………………………………………。 …………………………………………………………………………。 ………………………………………………………………………………。 ――――――って、何かがちがう。 「……サエさあ、もうちょっと…、こう、苦しそうに漕いでよ」 「こんな緩い坂じゃ無理だよ」 「えー…、だってそれじゃ降りようかって聞けないよ」 「……聞けば?」 「え、あ、降りようか?」 「オマエを乗せて坂道登るって決めたんだ。…だっけ?」 「あ、ううんその前に大丈夫だ、がいる」 「…(細かいな)(さっき言っなかっただろ)」 (ぜーーーったいおかしい!) (サエ、棒読みだし! こんなんちがう! 聖司くんじゃない!!) (あ、次あたしのセリフだ…) ――なんか、あたしが思い描いていたのとは違うのはあたしの気のせいだろうか? 「そんなのずるい!」(せめて自分はと頑張る) 「(わ、イキナリッ)」 「お荷物だけなんて、やだ!」 「(がんばるなぁ…)」 「あたしだって…ってもう坂ないじゃん!! あがっちゃったじゃん! バカ!!」 ――最低最低最低…!! あたしまだ自転車から降りてもないし押してもないしセリフだって終わってないのに…! つうか二人で一苦労して坂を上ってからこそ、ある感動なのに…! これじゃあ夕焼けも朝焼けもへったくれもないわよ…!! 「………………はぁ〜、もーわけわかんない、ダメじゃん、全然…」(しょんぼり) 「(わけわかんないのはこっちだっての) んー」 「サエ、ちょっとよかったとか思ってるんじゃないでしょうね?」 「! 思ってるわけないだろ?」 「……サエのバカ!(わーん)」 そりゃね、あたしだってちょっと勝手なこと頼みすぎたかなあとかね、思ったわよ?(本当です) でもでも、あたしはサエとだからしたかったわけであって! 他の男の子じゃこれは意味ないことであって! ちょっとだけね、ちょっとだけね、乙女なメルヘンチックに浸りたかっただけなのよー…。(ぐすん) 全然ダメじゃない、これじゃ…! サエなんか呆れてるっぽいし! この男またため息なんてつきやがったわよ!!(好感度なんてゼロだバカ!) 「…………(さいてーさいてー)」 「ー? そんな拗ねるなって」 「(拗ねてなんかないもん!!)」 「ってば。どうする? この後。せっかく出てきたしマジで海行く?」 「(知らない!)(一人で良いもん!)(雫ちゃんはお荷物じゃないけどあたしはサエのお荷物なのよどうせ!)」 「コンビニで花火でも買おっか」 「(…花火…)(ダメダメ!)(……)」 「……はぁ。」 ――――くそう、またため息つかれ、 「、オレと結婚してくれないか?」 (―――――――え?) まってまってまってまって。 それはちょっとまって。今サエが発した言葉はもしかしなくてもプロポーズの言葉で。 てゆっか、聖司くんのそれで。えーちょっとまってイキナリそれ言うのって経過ぶっとばしとかそうじゃなくって反則じゃない!? あ、あたしにどうしろと……!! 「(けっこんしてくれないかけっこんしてくれないか…!)(←エンドレスリピート)」 「…、返事」 そうやって不機嫌そうな声出してみたり。 それってさ、いつもサエが照れたときに出す声だよね…? …………どうしよう、思ってたよりも嬉しいかもしれない。 「えっと…、うれしい! そうなれたらいいと、」 「ってストップ。それはの返事じゃないだろ。俺が欲しいのはお前のなんだけど」 (――――う、っわぁ……) 「…………サエ大好き!!」 「うん。それならいいよ」 そうやってね、いつもなんだかんだ言って優しくて。 あたしのバカな我侭に付き合ってくれたりもして。 ――――やっぱり、聖司くんよりあたしのサエの方が断然カッコイイ男とか思っちゃうわけなんですよ。結局のところね! 「もー、サエってばなんだかんだ言って耳をすませばファンだね?」 「別にそうゆうわけじゃないって。お前に影響されたの」 「えー? あ、でもまさか言ってくれるとは思わなかった」 「嘘付け。すごい言わせたそうにしてたくせに」 「!(ばれてたか…!) そんなことなくってよ?」 聖司くんと雫ちゃんは遠恋になっちゃったけど、 あたしとサエはずっとずっと一緒にいようね。 だいすき! |